7人の小人
今日は俺にとってわりとラッキーな日だ。
と初めは思っていた。
なぜなら零司さん、祐月さん、悠人さん、仙太郎兄貴はそれぞれ朝から晩まで仕事や用事があり不在、昼間寮にいるのは1日オフの俺、午前中で仕事が終わった蒼くん、レッスンのみの駆さんの3人だったからである。
バカップルのうち2組が不在の上、歳が近くて仲の良い3人で久しぶりに寮に居られる時間ができてほっとしている。
とは言え、ご存知の通りこの2人もバカップルのうちの1人なのである。まあ基本的には仲良くしてるのと、3人で出かけたり練習することも多いため普段はその事実を忘れていることもあるのだが、一緒に家(寮)に居るとなると話は違ったのだ。
「翔ちゃーん!」
リビングで静かに読書をしていたら、自分を呼ぶ声が聞こえた。
声の主は蒼くんだった。
「どうかしましたか?」
「おなかすいた」
「......」
なんだよ、読書中の人間をそれだけの理由で呼ぶなよ、とは思ったが、確かに時計の針はお昼をとっくに回っていた。
「翔ちゃん、なんか作れない?」
「何が食べたいですか?」
「うーん、なんでもいいかな。午前中の仕事待ち時間長くてさ、なんかめっちゃ腹減ったわ」
とりあえず冷蔵庫の中を確認してみる。
「有り物でなんとか作ります」
「ありがとう」
そうは言ったものの、実は冷蔵庫には炊いた米くらいしかない。男7人が暮らす家だとどうしても食べる量が半端なくなるため、お腹が膨れやすい米は常に炊いておいてあるのだ。
どうしようか。おにぎりにでもするか。ふりかけやら醤油やら味付けのものはあるから、何種類か作ることにしよう。
そう決めて、俺は昼御飯の支度に取り掛かった。
7人の小人
さて、バカップル共と暮らしていると問題なのはここからである。
夕食が終わるとみんな各自部屋に戻るのだが、まあ部屋に戻ると言っても、一般的なカップルの行動を考えればわかるであろう。
そう、バカップル共はそれぞれどちらかがどちらかの部屋に集まって、始めるのだ。あれを。
バカップル共と同居している独り身としては、この時間が一番うざくて苦痛である。
まあ状況を見ればお分かりいただけるであろう。
「あ、あ...くっ、痛っ...ああ...」
「んなこと言って、気持ちよくて仕方ないんだろ?ほら、もうすぐ出るぞ」
「あ、あああ...」
また別の部屋では...
「ち、ちょっとぉ~、何でそんな優しくするのぉ~?もっと痛くしてよぉ~ 久しぶりなんだから思いっきり気持ちよくなりたい~」
「ああわかったわかった。久しぶりすぎて俺も加減がわからなくてなってた。じゃあ思い切りいくぞ。」
「ふふっ...そうこなくっちゃ。ああ気持ちいい...気持ちいい...よ...ふふ」
また別の部屋では...
「はぁ...はぁ...はぁ...ちょっと...今日...力...入れすぎ...じゃない...?こんなに...早く...逝くつもり...なかった...のに...はぁ...」
「ごめんごめん。ちょっと加減間違えたわ。でもいいでしょ?気持ちいいのすきじゃん?」
「そう...だけど...はぁ...はぁ」
もうお分かりいただけたであろう。そうなのである。3組のバカップル共が一斉にやり始めるので、3方向から音が聞こえてくるのである。うるさくて仕方がない。
零司さんはリーダーとしての責任からか、行為前に一応俺にやっていいかと聞いてくれることがあるが、俺が断ったところで向こうにやらないという選択肢はないのを知っている。
だから結局、独り身の俺は見守るしかないのだ。バカップル共を。
まあでも、そんな俺も心の中では
「おいてめえら!そーゆーのはやるべきところでやれ!他人と同居してる家でやるな!毎回毎回うるっせえんだよ!」
と怒鳴っているのである。
ん? 直接殴り込みにいけばいいじゃないかだって?
いやいや俺はこれでも、メンバーやファンの前では「可愛いくて素直で真面目な末っ子」を演じているのだ。そんなことをしたらそのイメージが崩れるのでできるわけがない。
心の中で悪態をつくだけで、充分ストレス発散にはなっているから、それで良いのだ。
そしたらお前はどうやって抜いてるのかって?
おいおいそれを聞くなよ。これでもアイドルなんだぞ。ファンの夢を壊すような発言をさせる気か?
まあでも俺も年頃の男だ。よくあるそっち系のビデオを見たりとか...って、これ以上は言えないぞ。
まあとにかくこんな感じで、俺はバカップル共と日々一緒に仕事をし、生活しているのである。
7人の小人
メンバー全員で一斉に寮に帰ると、決まってまずすることがある。
「じゃあ、悪いが今日は俺達が最初に入らさてもらうな。明日も朝から仕事が入ってるから」
そう言ったのは零司さん。明日は祐月さんと2人での撮影があるため、朝早くに出なければいけないらしい。
「わかりました。じゃあ俺達は次に入りますね。いいよね?ハル」
「大丈夫。零兄、ゆづ兄先入っていいよ~」
仙太郎兄貴と悠人さんである。
「俺達は最後で大丈夫でーす!翔輝は俺達の前に入りなよ」
そう言ったのは駆さん。
そう、お風呂の順番決めをしているのである。
バカップル共は大抵2人で一緒に風呂に入る。どのカップルから入るか、その順番を決めるのが恒例になっている。
どの組が最初に入るかは大体次の日のスケジュールを考慮して決めることが多いが、どうしても決まらない場合はじゃんけんで決めることになっている。
そして...
「翔ちゃん、今日の夕飯なに~?」
聞いてきたのは悠人さんである。
「今日の夕食は煮込みハンバーグです。野菜も入れますし目玉焼きも載せますので栄養満点ですよ」
「わぁ~い!翔ちゃんのご飯はいつも美味しいから楽しみぃ~!」
そう、夕食の準備である。なぜか食事の用意は俺の担当になっている。まあはっきりいって他のメンバーはちゃんと料理ができるやつがいないから仕方のないことなのだが。
零司さんと祐月さん、悠人さんと仙太郎兄貴の組み合わせで順番に風呂を回している間、俺はお気に入りのエプロンをつけて黙々と7人分の煮込みハンバーグを作るのだった。
7人の小人
さて、もうこれでおわかりいただけたであろう。
Promessailで唯一、誰とも恋人同士でない、つまりお一人様であるのは末っ子の俺、五十嵐翔輝というわけだ。
だから傍観者として、こうして俺がグループ内バカップル達の紹介と説明をひたすらしているわけである。
お一人様は寂しくないのかって?ご心配どうも。
寂しくはないが少々居心地が悪いと感じることはあるな。まあそれはこれから俺達の寮での様子をご覧いただけばおわかりいただけるかと思う。
因みに俺は自分でいうのもなんだがメンバーの中では一番しっかりしていると思っている。しっかりしているというよりは真面目という感じだろうか?なんせ他はみんなバカップル。何かというといちゃつきたがるやつらが多いのである。うっかりすると世間にうちのメンバー同士の関係がバレかねない、なんてくらいすれすれな絡みを公共の場所でやりかねないメンバーもいる。正直俺がいなかったらうちのグループはとっくに解散していたに違いない。つまり俺はグループの中ではなんというか抑止力、というか歯止め役という立場である。いや、見守り役というのが一番近いだろうか。
そんなこんなで、Promessailを守るべく常にバカップル達を見守り、時には制する、大切な役割を俺は担っているのである。
7人の小人
そして2組目のカップルは...
「あ~疲れたぁ。お腹空いたぁ。ねぇ仙ちゃ~ん、なんか食べに行こうよぉ~」
「おいおい、久々に全員揃っての仕事だってのに2人だけでか?せっかくだしたまにはみんなで...」
「いいじゃ~ん、仙ちゃんと一緒なのだって久々だしぃ~。2人で行こうよぉ~」
「ったく、仕方ないなぁ~。よしわかった、食べに行くか、ハル。何が食べたいんだ?」
「うーんとねぇ、ハンバーグ。でっかーいの食いたい」
「わかったわかった」
「やったぁ~。えへへ、仙ちゃんのおごりぃ~」
「いや待て待て。食べに行くとか言ったが、おごるとは一言も行ってないぞ。ハルもちゃんと稼いでいるんだから、飯くらい自分で払え」
「えぇそうなのぉ~?な~んだ。ちぇっ。仙ちゃんのケチ~」
そう、逸瀬悠人と鑑仙太郎である。
この、語尾に毎回「~」がつくうざい話し方の人物がハル、こと逸瀬悠人である。話し方を見てわかる通り、あざとさ100%、女子でいうぶりっこキャラである。ついでに話し方と合って見た目も女性っぽい、綺麗で可愛らしい顔立ちをしているため、女性ファンからは絶大な人気がある。しかしまあ綺麗な薔薇には棘があるというもの。祐月さんほどではないがこの人もかなりの毒舌だ。嫌なことがあればすぐ口や顔に出すし、本当に腹が立った時は仙太郎の兄貴に愚痴をぶちまけて、最終的には慰めてもらっているようなタイプだ。あとめちゃくちゃ甘えるのが上手い。先ほどのやりとりのように、仙太郎の兄貴にはいつもなんやかんやと甘えている。グループの中で3番目とは思えないほどの甘えっぷりである。
そしてそんな悠人さんを甘やかし、時には少しだけ厳しくたしなめる、それが仙太郎の兄貴だ。先ほどから気になっていたかと思うが、俺がこの6人の年上メンバーの中で唯一兄貴と呼ぶ存在である。何でそんな呼び方するかって?尊敬しているからである。気分屋の悠人さんの愚痴をいつも聞いてやり、慰めもし、頼み事やわがままも聞いてやるが、度が過ぎた場合はきちんと叱り...とストレスの絶えない生活を送っている人物なのである。その上真面目で頭もよく、日本でも5本の指に入る某エリート大学に通い、学科でもトップの成績を誇っている。幼い頃から剣道をやっていたせいか運動神経もよく、そーゆー系のバラエティにメンバー全員で出演しても一番活躍するタイプだ。わがままで気分屋な恋人に振り回されながらも私生活を器用にこなす、本当にすごい人だと思う。しかもいつも穏やかで人当たりもよく、まるで仏のような存在である。(いやそれは言いすぎか?)
だが安心してほしい。この人もしっかりストレス発散はしている。あまりにも腹が立ったり悩み過ぎて迷宮にはまった時は、竹刀を狂気のようにふり回すことで発散させているからである。(正直かなり危険だとは思うが)
因みにこの2人はそれぞれ三男、五男であるが、年齢的には同い年である。そしてどう考えても仙太郎の兄貴が年上ポジションだが、実は悠人さんの方が生まれ月が早いというのが驚きである。この同い年カップルはうちのグループの中で最もいちゃつく頻度が高く(主に悠人さんの方だが)、扱いが大変である。
7人の小人
何がやばいかって、ユニット内恋愛をしていることがやばいんじゃない。いやもちろんアイドルとして、グループで活動している身としてはそれでも充分やばいのだが、問題はそれ以上である。
なんせ俺達は男性アイドルユニット、つまり、メンバーは男しかいないのである。
もうこれでおわかりいただけたであろう。そう、世間一般でいうボーイズラブというやつである。
しかもカップルはユニット内に1組だけではない。3組である。
メンバーは全部で7人だから、1人以外は全員恋人同士ということになる。
じゃあその組み合わせはというと...
「ねえ零司、今日の俺もイケてた?」
「ああもちろんだ。お前が一番かっこよくて綺麗だよ」
「やっぱりね。さすが零司、よくわかってるよね」
「当たり前だろ。もはやお前が好きすぎてどうしようもないんだ。なあ祐月、今夜また襲ってもいいか?」
「ふふふ。もちろん。嫌がるわけないでしょ」
そう、1組目はリーダーで最年長の笠原零司と東城祐月である。
この2人は年齢的には1歳差だが、共に最年長組ということで、恋愛に関しても他の4人とはちょっと違う大人っぽさとか、色っぽさみたいなものがある。
零司さんはリーダーでしっかり者、俺達年下組のことをいつも1番に考えてくれているすばらしい人だ。しかも寮以外では仕事でなくても絶対いちゃいちゃしないなど、公私の区別をしっかりしてるし、芸能人としての常識もしっかりもってる。
祐月さんは誰もが見惚れるような美形男子で、その類いまれなる美貌のために撮影系の仕事を多く抱えている。
あまりに美しすぎるのでもはや誰も「祐月さん」なんて呼ばない。ファンの間では基本的に「ゆづさま」で通っている。
ファン対しては常に王子様スマイル全開で色気ムンムンで女性たちからキャーキャー言われまくってる、絵に描いたような完璧アイドル、なのであるが、実は裏ではめちゃくちゃ毒舌である。ファンには「僕は皆さんの彼氏です」アピールをし(ミッキーマウスか)、全力の王子様スマイルでお手てフリフリする理想のアイドルを演じているが、仕事以外の場面ではめちゃくちゃ毒を吐く。まあつまり二面性っつーやつがすっげーあるタイプである。だがプロ意識が高く、何事にも決して手を抜かないし、零司さん同様恋愛に関しての公私もはっきり分けているため2人の関係が世間に知られてしまう心配はない。
零司さんは祐月さんだけでなく、メンバー全員に対して優しいため(もちろん祐月さんには特別に優しいが)、他のメンバーからも慕われており、好かれているのだが、そんな零司さんを独占できるという権利を充分に発揮しているのが祐月さんなのである。