7人の小人~side YZ~
最初は他人と一緒に練習なんてまっぴらごめんだと思ったが、彼と一緒に自主練をしてみたら思ったより悪いものではなかった。
彼もあまり頻繁にレッスンに出られていないのか、最近この事務所に入ったばかりなのか、レベルが同じくらいだったのだ。
また彼は結構気さくに色々と話しかけてきた。
俺はあまり自ら他人に声をかけないタイプだったが、少しの間一緒に練習しているうちに彼と会話を交わすようになった。
そしてわかったことがあった。
彼は俺と境遇が似ていたのだ。
7人の小人プロフィール①(仮)
名前:東城祐月
誕生日:6月23日
年齢:22歳
血液型:A型
家族構成:父、母
経歴:モデル
特技:勉強全般、運動全般、歌、ダンス
趣味:映画鑑賞、作詞(最近始めた)、観劇(零司の影響)
グループ内ポジション:リードボーカル、リードダンサー、ビジュアル担当、フェロモン担当
備考:母親の名前は佐月で4月生まれ
7人の小人~side YZ~
「あ...はい。まあ...そうですけど」
俺は声をかけてきた相手を訝りながら答えた。
「おっしゃ。じゃあ一緒に行こうぜ。俺もちょうど自由練しにいくところだったんだ」
そう言うと、相手ははりきった様子で前を歩く。
仕方ないのでついて行くことにした。
本当はあまり乗り気ではなかったのだが。
何故って周りに気づかれるのが嫌だからこんな朝早くからひっそり練習しているわけなのに。
何故わざわざ他人と一緒に自主練しなくてはいけないのか。
まあでも仕方がない。断る理由もないし。
と思い、彼と一緒にレッスン室に向かった。
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新しい事務所に入ってからの生活は、俺のこれまでのそれとは180度違うものになった。
まず、朝起きたら支度をして事務所のレッスン室に向かった。もちろん、こんな朝からレッスンが予定されているわけではなく、ただの自主練である。何もこんな朝早くに来なくてもと思われていたかもしれないが、これまでに習ったことの復習や苦手な部分の克服には、人がほとんどいないこの朝の時間帯が一番だと思ったからだ。
そこで一時間ほど練習した後、コンビニで適当にパンを買って食べ、そのまま学校へ行った。
学校が終わったらまた事務所へ向かう。今度は定期レッスンのためだ。同じレッスンを受けているのはほとんど俺と同じくらいの年齢の子違ばかりだったため、俺と同じように制服のままレッスン室に駆け込む人は多かった。
そこで通常2~3時間のレッスンを受け、終わったら帰宅して夕食、入浴、就寝。
そんな生活の繰り返しだった。
その間にもモデルの仕事は依然と変わらず入っていた。
ただ俺の場合はモデルの仕事と平行してのプロジェクト参加、という形で事務所に入っていたため、モデルの仕事がある時はその分のレッスン時間をずらしてもらったりと、少し優遇は受けていた。
だが先生達も俺一人のためだけにレッスンに長く時間を割いてはいられない。
土日は毎週、定期レッスンがあったが、俺はモデルの仕事や仕事関係の行事が多くて忙しく、なかなか参加が出来なかった。
土日のレッスンで他の子達はどんどん歌もダンスも上達していくのに、参加ができていない俺はついていけなくて置いていかれるばかりだった。
そうなると、昔から芸能界で生きてきたが故の負け犬根性か、完璧主義な性格からかはわからないが、必死に他の候補生に追いつこうと、朝の自主練により力を入れるようになった。
毎朝1時間だった練習を2時間に増やした。そのために起きる時間も早くなりきつかったが、練習を怠けて落ちこぼれになるよりましだった。
ある朝、この日も2時間の自主練をしようとレッスン室へ向かっている時だった。
「なぁ、おまえもレッスン室行くのか?」
いきなり後ろから声をかけられた。
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昔から、仕事に関して大きな動きがある時は母親に伝えるようにしていた。
そこで今回もスカウトを受けたことと、事務所を移籍すること、そこでアイドルとしてデビューするためのレッスンを受けることになったことを伝えた。
そしてわりとあっさりと、母親は承諾してくれた。
「ゆずくんがそうしたいと思うならそうしなさい。」
と。
俺は母親への報告を終えてからもう一度矢形さんへ連絡を入れ、スカウトを受ける旨を伝えた。
これをもって俺は花菱プロダクションの所属となり、アイドルを目指してレッスンを受ける日々が始まることとなった。
7人の小人~side YZ~
昔から、容姿を褒められることが多かった。
綺麗だね、と言われ続けてきた。
小さい頃からモデルの仕事をしてきたからそう言われるのも当たり前のことかもしれないけれど、言われて悪い気はしなかった。
実際自分でも容姿にはそれなりの自信があったし、綺麗で居続けるための努力も惜しまなかった。
モデルの仕事は7歳の頃から始めた。これは元々モデルをしていた母親の影響だった。その頃現役モデルだった母親の指導によるレッスンを日々受ける傍ら、撮影やファッションショーに出演していた。
小学校に通いながら仕事をしていたため幼い頃は毎日忙しく、放課後や休日に友達と遊んだ記憶がほとんどなかった。
中学に進学する頃にはモデルとしてある程度名前が知られる程の存在となったが、クラスで有名人として扱われてしまったことで逆に上手く周りに馴染めなくなってしまった。
高校まで進学しても有名人扱いは変わらず、なかなか友達らしい友達ができなかった。
モデルの仕事は嫌いではなかったが、学校生活や人間関係に支障が出ていることを実感すると、このまま続けていてもいいのだろうか、何か他にもっとやれることがあるのではないかと考え始めた。
何か、新しいことを始めたい。モデルの仕事も続けたいけれど、もっと何かわくわくするような、もっと刺激的な、そして同年代とも人間関係を築けるような...
色々考え出していた頃だった。まさに渡りに船という出来事があったのは。
「失礼ですが、東城祐月さんですか?」
撮影が終わってスタジオから出たところ、いきなり後ろから声をかけられた。
「...そうですが?」
「ちょうどよかった。私、花菱プロダクションの矢形と申しますが...」
相手はスーツの胸ポケットから名刺を取り出した。
「アイドルのお仕事に興味はおありでしょうか?」
「...アイドル、ですか?」
「ええ」
相手は詳しく説明してくれた。
「実は今度うちの会社で、新しい男性アイドルグループを作ろうとしておりまして、そのメンバーを今募集しているんですよ」
と。
新しい男性アイドルグループ...か。
花菱プロダクション。この名前は耳にしたことがある。芸能プロダクションとしては大手でこそないが、アイドルから俳優やモデルまで、様々な職種のスターを輩出してきたやり手の事務所だ。
アイドルグループでもそれなりに名前の売れているのがいたはずだが、思い出すのは全て女性グループで、男性アイドルを輩出しているというイメージは沸かなかった。
「その新規アイドルグループのメンバーに、何故僕が?」
俺は一番疑問に思っていたことを聞いた。
「実は今回のアイドルグループ育成プロジェクトにはあるコンセプトがありましてね、それが"マルチに活躍できるアイドル"というものなんですよ」
"マルチに"...?
「アイドルとしてのスキルだけでなく、他にも色々な芸を持っていて様々な分野で活動できるアイドルグループを作りたいのです。東城祐月さん、あなたはモデルとしてかなりの経歴をお持ちですね。その経験を生かして、うちの事務所でアイドルとしてデビューしませんか?モデルというキャリアを生かしてのアイドルデビューになるので、アイドル活動をしながらもモデルの仕事を続けられますよ。」
なるほど。モデルの仕事と平行しての活動になるのか。花菱プロは所属事務所としても知名度は悪くないし、これから先もずっとモデル一本でやっていくよりは歌って躍れるアイドルとしてのキャリアを積む方が色々なチャンスも増えるだろう。
それならば...と思ったが、1つ大きな問題があった。
「あの、僕は歌もダンスも未経験でレッスンを受けたことすらないのですが。アイドルとしてデビューするのでしたら、最低限そういったスキルは必須ですよね?」
俺は気になっていたことを聞いた。
アイドルデビューさせてもらえると言われても、肝心な歌とダンスが出来ないんじゃアイドルになる意味がない。それだったらこのままモデルの仕事一本でやっていくつもりだった。
「レッスンは、事務所に入ったら全員受けることになりますので心配はいりませんよ」
矢形さんが答えた。
「それに、今回のプロジェクトでデビューが決まる予定のアイドルグループのコンセプトが"マルチに活躍できるアイドル"だと申し上げましたが、その"マルチ"の幅をできるだけ広げたいと考えておりまして、アイドルとして以外のスキルや経歴があることを強みとするグループの結成を目指しています。なのでメンバーは事務所の候補生だけでなく外部からの加入も考えていて、一般公募も行っているんです」
「一般公募...ですか。ということは...」
「そうなんです。これまで全く芸能活動の経験のない一般の方々にも応募していただけまして、条件を満たせばこのグループに所属してデビュー候補メンバーになることができるシステムです。そのように芸能界自体が全く未経験の方も対象としているので、事務所に入ってから必然的にレッスンは受けていただくシステムをとっているんです」
なるほど。
矢形さんの説明を一通り聞いて、俺はなかなかにこの話に興味を惹かれてきていた。
これまでやってきたモデルのだけでなく、アイドルという新しいジャンルの仕事に挑戦できるというのは、何か新しいことを始めて活動の幅を広げたいと思っていた今の俺には逃せないチャンスだった。また何より、これまで芸能界に全く縁のなかった人達と関わる機会があるというのは、幼い頃から芸能界で生きてきて仕事関係以外でほとんど人付き合いのなかった俺にとっては魅力的な話だった。
「東城さんにはぜひうちの事務所に入っていただきたくて。モデルとしてのキャリアも長いですし、ビジュアルの良さを売りにしてる芸能人の中でもなかなか見つからないほどの綺麗なお顔で、体型もすららっとしていらっしゃるじゃないですか。ぜひうちの事務所に入って今回の新規グループのメンバーになっていただきたいんです」
強く懇願されるような眼差しで迫られ、俺はついに覚悟を決めた。
「わかりました。アイドルデビューのお話、受けさせていただきます。」
そう答えると、相手の顔がぱあっと明るくなった。
「本当ですか。ありがとうございます。それでは早速...」
「ですが...」
「?」
俺は一息吐いて、言葉を続けた。
「少しだけ時間をくださいませんか。先に伝えておきたい人がおりますので」
7人の小人
「出来ました!ご飯にしましょう」
俺は出来上がったおにぎりを食卓に持っていった。
「わー翔ちゃんありがとう!腹減ったぁ」
「俺も、レッスンしてきたからめっちゃ腹減ったわ」
蒼くんと駆さんもリビングにやってきて、俺を挟んで向かいあうように食卓についた。
「いっただっきまーす」
3人で手を合わせ、食べ始めた。
「うーん、めちゃうま!やっぱ腹が減ってる時のご飯ってうめーな」
蒼くんはよっぽどお腹が空いていたのか、まるで漫画のーコマのようにもぐもぐと音を立てながらおにぎりを頬張っている。
「おい、ソウ」
「ん?」
駆さんは手招きするような仕草をし、蒼くんは身を乗り出すように顔を上げた。
その瞬間
「!!!」
ぺろっ
駆さんが蒼くんの頬に舌でキスをしたのだ。
「ちょ、かっくん...」
「ご飯粒、ついてたぞ」
駆さんはそう言って、舌先でなめとったご飯粒を指で拭いとり、ウインクをした。
「ちょ...っ、え」
「ついてたぞ、頬っぺにご飯粒。だから取ってやったんだよ」
「!!!!」
蒼くんは一気に顔が赤くなった。
「あ...そ...そっか。うん...ありがとう」
「ああ、気を付けろよ」
駆さんはなんともなかったかのように返答をした。
が、
いやいや、今俺は一体何を見せられたんだ!? 何事もなかったかのように済まされているが、こんなのただのノロケじゃねーか!
まあ蒼くんの方はまだ恥ずかしい様子で顔を赤らめたままなので、完全になんともなかったという雰囲気ではないのだが。
まったく!この3人だけでいる時でもさりげなくいちゃつく気なのかこいつらは!
まあ俺は?普段から周りが全員カップルな中1人だけ独身っていう身で過ごしてきてますから?気まずいとか寂しいとかの感情はないですけど?
だがまあ、せっかく久しぶりに普段から仲良くしてる3人だけで過ごす時間ができたわけだから、ちょっとくらいは俺に気を遣ってくれるんじゃねーかと思っていたのだが、向こうにそんな気は微塵もなかったようだ。
普段から仲良くしてるいることもあってこのカップルには基本的に悪い感情はもっていないが、今回のような光景を見てしまうとやはりこいつらもバカップルだったなと思い出すのである。
だがまあいい。俺はいつだって見守る立場だから。
しっかり者で可愛いPromessailの末っ子五十嵐翔輝。今日もこうやってバカップル共を見守るとしよう。