7人の小人~side YZ~
「11月15日に幕張メッセにて開催されるstarG社主催の音楽の祭典、Gフェスティバル2019への出演が決まりました。久しぶりの7人揃ってのお仕事ですので頑張りましょうね」
9月のある日、マネージャーからそんなお話があった。
「まじかよ。starG社って、あの...?」
「そうです。star+など配信アプリの提供やMV制作などをおこなってる会社です。そこが今回、人気アーティストを集めて大規模な音楽フェスを開催することになったんです。フェス自体は2日間おこなわれますが、皆さんが出演するのは1日目になります」
マネージャーが加えて説明した。
star+は日本で芸能活動している人なら誰しも1回くらいは使ったことがあるであろう有名な配信アプリで、俺達もユニットとしてのチャンネルをもっているし、俺達の曲のMVのほとんどはこの会社で制作している。だから出演依頼も来やすかったのだろう。
「そっか。7人での仕事、久々だな。楽しみだ。な、ハル」
「うん。楽しみ~」
「ほんと、1ヶ月ぶりくらいだもんな。頑張ろうな。」
「頑張ろ~!ファイトー!」
「いやいや、蒼ちゃん気合い入りすぎ。」
俺達はユニット活動とは別にメンバーそれぞれが個人での仕事を抱えているため自分で言うのもなんだがなかなか忙しく、ユニットとしての活動はかなり久々であった。さらにメンバー全員でステージに立つというのは本当に久々だ。だからか、みんなこのフェス出演の話にテンションが上がっていた。久しぶりにメンバー全員でステージでパフォーマンスができるのが嬉しくて仕方ないのだ。
「本当に運よくこの日は皆さん誰もスケジュールが入っていなかったので、ちょうどよかったです。約1ヶ月ぶりのグループ活動になりますから、ファンの方々にも大いに喜んでいただけることでしょう。期待を裏切らないためにも頑張りましょうね」
「はいっ」
「頑張ります」
「頑張る」
「頑張るよ~」
「ファイトー!」
マネージャーの言葉に、みんなそれぞれ自分自身に活を入れるかのように返事した。
...2人を除いては。
その理由は...
「あの...」
渋々と言葉を切り出したのは、俺の恋人の零司だ。
「大変有難いお話をいただいてみんな喜んでいるところ申し訳ないんですけど、その出演のお話、祐月に関してはちょっと難しいかと...」
みんな一斉に零司と俺を見た。
「祐月は前日まで海外スケジュールがあります。フェス当日には帰国してオフの予定ですが、時間的に空港からすぐに会場に向かうことになるので厳しいかと思います。時差ボケなどもあるかと思いますし」
そうなのだった。俺は11/14までミラノに滞在して現地のファッションショーに参加する予定があった。フェスの日には帰国だが、この流れだと本番前に寮に帰る暇はなく、空港から会場へ直行しなければいけないスケジュールになってしまう。正直少しハードだ。
「ああ、そうでした。祐月くんは海外スケジュールから戻ってすぐなんですよね。それだと体力的にもきついと思いますし、リハーサルの時間をとるのも難しくなるのでちょっと厳しいかなぁ。せっかく久しぶりのメンバー全員揃ってのお仕事でしたが、祐月くんのスケジュールの都合もありますし、残念ですがやはり今回は...」
「出ます」
「え」
俺もそのことが気がかりではあるが、だからといって断ったり、途中参加なんて許されない。貰った仕事は全て完璧にこなす主義だ。休む暇なしに空港から直行しなければいけないこと以外は他のメンバーと同じ条件だ。零司が助け船を出してくれて有難い気持ちはあるが、そこに乗るつもりはさらさらなかった。
「出ます。折角の、久しぶりの、メンバー全員揃っての仕事ですから」
そう。久しぶりのグループ活動なのだ。俺達はそれぞれ個人での仕事も忙しく、メンバー全員揃っての活動が最近なかなかない。それが、たまたま運よく今回は全員揃っての仕事で、しかも大勢のファンに会えるイベントだ。みんな今回は本当にたまたまスケジュールの都合がついて、このイベントの出演の話が出たわけだ。こんなチャンスは多忙の俺達にはなかなかないことだった。折角いただけたメンバー全員揃っての久々の仕事を、俺一人の都合で白紙にするわけにはいかなかった。
「でも祐月くん、スケジュールは...」
「大丈夫です。できます。心配しないでください」
「でも...」
「お願いします」
俺はマネージャーに頭を下げてお願いした。
俺の心からの懇願に、マネージャーは困ったように頭をかいた。
「あの、俺からもお願いします。こいつがこう言ってるので、聞いてやってくれませんか」
「零司...!?」
隣で見ていた零司が、一緒にマネージャーに頭を下げてくれたのだ。
「リーダーとして、こいつのスケジュール管理には責任を持ちますので。なんとかします。お願いします」
「お願いします」
俺と零司は揃って頭を下げた。年長組が揃ってマネージャー相手に頭を下げるなんて、プライドの高い俺がそんなことをするなんて、と自分でもびっくりしてしまった。だがそれほど本気の願いだった。
「わかりました」
マネージャーはついに折れた。俺達の願いを聞き入れてくれた。
「イベントで披露する曲の練習とファッションショーの準備、かなりハードなスケジュールになりますけど、頑張りましょう、祐月くん」
「はい!」
俺は答えた。それと同士に、なんとかなる、大丈夫だと自分に言い聞かせた。
「あ、それと、イベントに向けての今後の予定ですが」
マネージャーが思い出した、というように切り出した。
「今回はユニット単独のステージで、オープニングありで3曲をオリジナルアレンジして披露してもらいます。すべてダンス曲でとのお話ですので、セットリストを考えておいてください。」