7人の小人~side YZ~
「お前、芸能人か?」
いきなりそう問われ、俺は戸惑った。
「そうだけど...何故それを?」
「やっぱそうか。いや、オーラがな、なんとなく他の奴と違うなと思ってさ。レッスンにあんま参加出来てないって言ってたのも、他の仕事で忙しいからかなと。そうなんだろ?」
俺はこくっと頷いた。
「いやーでもよかったよ。この中で自分と同じような人間がいて。なんかちょっと安心したわ」
「え?」
同じような...って?
俺が驚いた顔をしていると、相手は慌てて答えた。
「ああ、お互いまだ名乗ってなかったよな。俺は笠原零司。俳優だ。舞台が中心だが映画やドラマにも出てはいるから、どこかで見たことがあるかもしれないな。よろしく」
相手は握手するように右手を差し出した。
「東城祐月だ。モデルをやってる。よろしく」
俺も右手を差し出し、握手をしながら挨拶をした。
「モデルか。どうりで、スラッとしてるわけだ。あとすげー綺麗な顔してんな。男の俺でも惚れそうなくらいだ。」
相手はなんの恥ずかしげもなくそんなことを言った。
「ぷっ...くくく」
俺はそれがなんだか可笑しくて吹き出してしまった。
「な、何が可笑しいだ!?」
「だって、惚れそうって...俺、男なのに...くくく」
「だから、『男の俺でも』って言っただろ!」
相手は慌てた。
「でも、やっと笑ったな」
「...え?」
「お前ずっと無表情だから、俺嫌われてるのかと思ってた。ちゃんと笑うんだな」
相手はぐいっと顔を近づけてきた。
ち、近い...!
「お前さ...」
ちょ...な、何だ?
さらに顔を近づけてきた相手に、俺は戸惑った。
近くでよく見てみると、パーツの整った顔に男らしいがっしりした体つき。
そして明るさ。初対面の俺にも気さくに話しかけてくるほどのコミュニケーション能力の高さ。
自分にないものを沢山持っている相手に、羨ましさと同時になんだかもっと別の感情が湧いてきた。
なんというか、自分のものにしたい、というような感情だろうか。
「笑え。いつも。こんな風に」
相手はさらに顔を近づけ、2本の指で俺の唇の先を上方に押し上げた。
「ぶすっとしてると、綺麗な顔が台無しだぞ」
彼はそう言って、トイレに行く、とレッスン室を出て行った。
いや、別にぶすっとしてねーし!
俺は相手に触られた顔の一部を自分の手で撫でてみた。
びっくりしたが、触れられたことが地味に嬉しかった自分がいた。
同時に、心の奥底がなぜかキュンとした。
芸能人であるが故、これまでも「綺麗だ」と称されることは多くあったが、あの男から言われたそれは、少し意味合いが違うような気がした。
綺麗だと言われて、素直に嬉しいと感じたが、なんだか少し照れ臭い。
この感情は一体なんなのだろうか。